三幕構成とキャラクター哲学で読み解く創作物 『ちはやふる』編

けものフレンズ2』が話題ですね。

大変な不評で、ニコニコ動画では
「どこがどうダメなのか」と失敗の原因を分析する動画が大量にうpされる始末。


その中でもこちらの動画に感銘を受けたので
https://sp.nicovideo.jp/watch/sm34764041
https://sp.nicovideo.jp/watch/sm34681332

他作品の魅力をこの理論を使って分析してみようと思います。



第一回目は、末次由紀先生の『ちはやふる』です

(いや、第二回以降の予定とか全く考えてないけどまあとりあえず)。



以下、アニメ『けものフレンズ』と
ちはやふる』41巻までの壮大なネタバレを含みます。ご了承ください。






それでは、まず「三幕構成」でちはやふるを見てみます。

三幕構成とは、この文章内ではこういう意味で使ってます。

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ニコニコ動画『【ゆっくり解説】三幕構成を通して見るけものフレンズ一期』より


まず第一幕。
第一幕の流れはこういうものです。

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ニコニコ動画『【ゆっくり解説】三幕構成を通して見るけものフレンズ一期』より




これを『ちはやふる』にあてはめると…
漫画で言うと5巻、一年次の高校選手権全国大会団体戦、そしてその翌日の個人戦までが第一幕であることがわかります。

ちはやふる』のセントラルクエスチョンは、いうまでもなく
「綾瀬千早がクイーンになれるか?」ですね。
そこに各登場人物の思いが複雑に絡み合って、ひとつの物語になっている。


この三幕構成という考え方で見てみると、5巻の個人戦で印象的なシーンがあります。
現クイーンである若宮詩暢と対戦し、20枚差で惨敗。涙を流しながら「あの子に勝ちたい、勝つにはどうしたら」と切望する千早を見た太一の独白、



『ああ 今日だ いまやっと 千早の夢が 本物の夢に』
真島太一 ─『ちはやふる』5巻より引用



そして、ここに至るまでに
主要キャラ(真島太一、綿谷新、大江奏、西田優征、駒野勉、原田先生、須藤さん、ヒョロくんなどなど…)が紹介されます。




ちょっとここで、各登場人物の『哲学』にも触れておきましょう。


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ニコニコ動画『【けものフレンズ2】脚本が抱える問題点についての考察【ゆっくり】』より



綾瀬千早の夢は、物語開始当初は
『お姉ちゃんが日本一になること』でした。

それが、綿谷新が転校してきて
彼に「自分のことでないと夢にしたらいかん」と諭されたこと、
彼のかるたへの情熱に感化されたことによって

『日本で一番=世界で一番=クイーン』になること、に変更されます。

(この時はまだうすぼんやりとしか思っていなくて、
後に太一に「新につられて言ってるだけで本気でクイーンになろうって思ってないんだろう」と言われていますが)


そして、何故かるたでクイーンになることが夢なのか?
その理由は明確です。



『あたしたちにはかるたがあるから また会えるんじゃないの?
続けてたらまた会える 絶対会えるよ』
綾瀬千早 ─『ちはやふる』2巻より引用



つまり、先程
「『ちはやふる』は綾瀬千早がクイーンになれるか?がセントラルクエスチョンである」と書きましたが
「クイーンになること」は、少なくとも小学生編時点では、千早にとっては中目標なんですよね。


大目標は…『新と太一と、ずっと友達でいること』。



つまり、『ちはやふる』の物語は
千早と新と太一の友情…
つまり、『また会える』のかどうか、が
真のセントラルクエスチョンなのではないかと思います。

その為の中目標が『クイーンになること』なんじゃないかな。



続いて、新の夢。
これは「祖父のような名人になること」。

しかし、祖父の死によって
大目標が消失してしまいます。


『かるたとか もう やってないから』
綿谷新 ─『ちはやふる』2巻より引用


それを変えてくれたのは、千早でした。
祖父が亡くなってからも、かるたをやらなくなっても
ずっと考えていた新。
千早からのメールを見て、全国大会の近江神宮にやってきて
あの頃と変わらないまっすぐな千早を見て、新の大目標も再設定されます。



『じいちゃん
おれ かるたが好きや』
綿谷新 ─『ちはやふる』4巻より引用


この新の大目標の変更をみると、新の『哲学』がみえます。

かるたが大好きで
かるたを教えてくれたじいちゃん、綿谷先生が大事で大切で、誇りで。
同時に千早と太一が大切で。
不器用だけど芯が強くて、心優しい少年。



しかし、綿谷新の『大目標』に立ちはだかる現名人、周防久志はまだ5巻だと未登場なんですね。

周防さんが初登場するのは単行本8巻、年明けの名人・クイーン戦をテレビで観戦するシーンです。


なんでこの人が第一幕終了までに出てこないのかっていうと
主人公・綾瀬千早目線でみると、
周防さんの存在は『問題解決の糸口』なんですよね。

それが他の登場人物、例えば8巻だと肉まんくんが一番象徴的なんですが
彼ら男性陣の目標に立ちはだかる壁として
周防さんが登場すると同時に、
千早にとっては『クイーンになる』というセントラルクエスチョンに対しての自分の武器を手にする。



『綾瀬にも20枚あるみたい
なにがって 一字決まりが!』
駒野勉 ─ちはやふる 9巻より引用



ここである程度『ちはやふる』の物語がどういう物語なのかがわかってくるのですが
改めて、第二幕がどんな役割なのかを考えます。



第二幕とは。
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ニコニコ動画『【ゆっくり解説】三幕構成を通して見るけものフレンズ一期』より




これを『ちはやふる』の物語で考えると

千早以外の人間の大目標、
例えば机くんの「みんなをサポートしたい」とか
かなちゃんの「実家の呉服店を継ぐためにわたしにできること」とか、須藤さんの「文武両道」とかによって
千早が考え、影響され、成長していく、という物語であると考えられます。


しかし、順調に成長していくかと思いきや
その日は突然にやってきます。



ここにきてようやく、真島太一という人物の『哲学』が明かされるのです。


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ニコニコ動画『【ゆっくり解説】三幕構成を通して見るけものフレンズ一期』より



『好きじゃない 好きじゃない かるたを 好きじゃない
好きじゃない
そんなこと認めたら そばにいられない』
『それでも耐えるくらい 好きだったんだね あの人たちが』
真島太一、周防久志 ─『ちはやふる』27巻より引用


太一は、かるたが好きだったのではなく
千早をはじめとするみんなが、大好きで、大切だったのです。

一番になれなくても。
親からプレッシャーをかけられても。
千早と新がいたから、ずっとかるたを続けて。
みんなに出会って。そのみんなが大切だったから、やめられなくて。
好きじゃないなんて、絶対に言えなくて。


太一の大目標は『医学部進学』『一番になること』のはずでした。
それが、『ちはやふる』の物語の中で彼はずっと、彼の『哲学』によって大目標を曲げ続けてきたのです。
愛した人達のために。



彼から恋心を告げられ、『ごめん』と言ってしまった千早は
彼と同じように、かるたが取れなくなってしまいます。

百枚全部、真っ黒に見える。
札が、冷たくて、重い。


この頃には千早の大目標は完全に『クイーンになること』にシフトしていたのですが
最初の大目標は『ずっと友達でいること』だった。

これはもはや哲学の方ですね。
ずっと太一を傷つけていた自分が、許せなくなった。


逃げるように勉強に走る千早。
思いっきり勉強して、勉強して、最後に辿り着いた結論は。


『勉強すればするほど 本は 言葉は 文字は
こんなには いらないなぁって……』
綾瀬千早 ─『ちはやふる』28巻より引用


………深作先生でなくとも、「そんなところに辿り着く???」と思ってしまいますが
千早はそんな子だった、っていうのが28巻の間にもう充分すぎるくらいに語られているので、妙に納得してしまいます。笑

猪突猛進。
語彙のほとんどがかるたに始まりかるたに終わる。
それもこれも全て、新と太一の為に。



そして物語は第三幕に。

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ニコニコ動画『【ゆっくり解説】三幕構成を通して見るけものフレンズ一期』より


千早はクイーンになれるのか。
そして三人の友情はどうなるのか。


涙なしには見られない40巻を添えて、今回の考察を締めたいと思います。

ちはやふる(40) (BE LOVE KC)

ちはやふる(40) (BE LOVE KC)

『かるたを一緒にしてくれて ありがとな』
綿谷新 ─ 『ちはやふる』40巻より引用